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2014年ホスピス研修講座第1回   2014年10月18日(土)

 私らしく生きるために、思いを形に
 第1回 住み慣れた地域での生活を継続していくために
  テーマ1 超高齢社会を支える医療や介護などの動き
        古屋 好美(中北保健所)


 ホスピス研修講座『私らしく生きるために、想いをかたちに』の中でお話しさせていただく機会を頂きましてありがとうございます。私の話は「超高齢社会を支える医療や介護などの動き」という内容になります。
 まず、今はどんな時代で、これからどうなっていくのかを一緒に見ていきましょう。
 今後、人口の急激な変化があります。少子化で現在の1億2千万人ほどから2030年には1億1千万人、2060年には8千6百万人ほどまで減ると予想されています。
 また、高齢者人口(65歳以上)割合が現在の24.1%から39.9%まで上昇します。要介護認定率は65~69歳では2.6%ですが、85歳以上で45.9%、90歳以上では68%とどんどん上がります。皆さんも将来介護を受ける可能性が高いといえます。
 次に全国規模の調査で介護に関する希望を見てみます。本人の希望では自宅で介護を受けたいという方が74%いらっしゃいます。一方で家族の方の希望では自宅で介護を受けさせてあげたいという方が80%と本人の希望よりむしろ少し多くなっており、家族の方々のやさしい気持ちが感じられます。
 国は、国民の生活を生涯にわたって社会保障制度という形で支えています。そのために使われたお金(社会保障給付費)も非常な伸びを示しております。
 また、国民所得に対する医療費の占める比率は昭和30年の3%から直近の平成23年には11%を超えるところまで来ており、大きな支出をしていることがわかります。
 介護費用も同様で2012年現在の9.1兆円の予算が2025年には2倍以上の21兆円になると予測されています。
 社会保障費負担状況は1965年には65歳以上の高齢者1人を9人で支える「胴上げ型」でした。2012年現在は2-3人で支える「騎馬戦型」になりました。さらに2050年になると1人で1人を支える「肩車型」という厳しい状況になります。この状況を少しでも良くするには子ども・子育て支援によって赤ちゃんがたくさん生まれるとよいですね。
 また、65歳以上の方で元気な方はそれ以降も健康で働ける社会であるとよいですね。

 国はこの状況に対してどのような動きを見せているのでしょうか。「社会保障・税一体改革大綱」のもと医療介護総合確保推進法を制定しました。これは医療と介護を地域で一体化していくシステムを作ろうというものです。
 この法律の内容を見てみますと以下のようになります。
 ① 新たな基金を作り、医療・介護の連携を強化する。
② 地域で効果的な医療を提供できるようなシステムを作る。
 ③ 地域包括ケアシステムを作る。

 改革後2025年に実現させたい医療介護の将来像である地域包括ケアシステムを国が示しています。
 大きな病院に入院して治療する必要がある場合はまず高度な医療を受けてください。早期に治療を完了し、急性期病院や回復期病院に移ります。さらにリハビリ等が必要ならばリハビリ病院へ転院となります。在宅療養の見込みが立てば自宅に戻り、社会復帰です。自宅に戻りましたら近くで受けられる、外来医療や在宅医療、歯科医療と訪問看護サービスを利用してください。自分の家を中心とした介護サービス(在宅介護サービス、生活支援・介護予防等)も利用できます。この中にはボランティアやNPOなど、地域の皆さんにも療養支援の協力をしてほしいという内容も含まれています。医療と介護が連携を強化して、切れ目のない療養支援サービスを提供するシステムの構築が目標です。

 このような地域包括ケアシステムの構成要素は次の5つとなります。まず大前提として在宅療養することに対する本人・家族の自らの選択と心構えを持つことが大事です。
 その上に、① 住まいと住まい方として住環境の整備をしていきましょう。② 生活支援・福祉サービスとして食事の準備、生活困窮者への福祉等を提供していきましょう。
 それら生活基盤を整えた上に残りの3つ、③ 医療、看護、④ 介護・リハビリテーション、⑤ 保健、予防という専門的なケアサービスで療養を支えていこうというものです。
 この地域包括ケアシステムの推進力となるのが[自助][互助][共助][公助]です。
 自助:自分のことは自分でしましょう。自ら行う健康管理や、市場に出ている健康サービスを利用することです。
 互助:個人・小さな当事者の団体で助けあいましょう。
 ボランティア活動、市民活動など生きがいを持てるような活動に身近な人たちで取り組んでいこうということです。自助・互助はできることは自分・自分たちでしようという行動です。どんどん進めていきましょう。
 そして、共助:介護保険などの社会保険制度やサービスのことです。
 公助:福祉事業、生活保護、人権擁護制度などのことです。これらは公的な支援体制で、通常の健康管理の場面での役割は小さくなっていきます。
 このように医療・介護サービス保障の強化のために包括的マネジメントを進める役割を担うのが在宅医療連携拠点、地域包括支援センター、ケアマネジャーということになります。

 では、山梨県民は何を考え、何を望んでいるでしょうか。
 まず、山梨県の高齢化の状態を見てみましょう。本県の高齢化率ですが、全国より約1年早いペースで高齢化しています。また、がん、糖尿病、高血圧、心臓疾患、脳血管疾患といった生活習慣病による死亡率が合わせて55%と全国同様に大きな割合を占めております。
 認知症も重要な問題です。山梨県の高齢者(65歳以上)の方の10人に1人は認知症です。認知症の方の90%以上は75歳以上の方、それらの認知症の方の70%は在宅で過ごしているということもわかっています。
 この実態に対して山梨県の行政の動きはどうなっているでしょうか。山梨県地域保健医療計画(H25~29年度)では「在宅医療」を重点事項に位置付けています。山梨県介護・医療連携推進協議会・作業部会を立ち上げ、H25年度には介護医療連携指針の作成を行いました。H26年度には山梨県地域包括ケア推進協議会に発展し指針に基づいた実践の段階に入っています。

 そして、一番皆さんの身近にある保健所があなたの近くで支援いたします。と言われても保健所が何をしてくれるのという方もいらっしやるでしょう。
 保健所はこのようなことをしています。
 ① 在宅療養者や家族の視点で在宅療養を考える機会や場所づくりをします。
 ② 集まった意見を関係部署に伝えて信頼できる関係づくりをします。
 ③ 管内でネットワークの構築、地域づくりをしていきます。
 多職種が集まって療養者支援のための連携を図る在宅療養老支援検討会議を企画しました。また療養者支援のため既存のネットワークヘ参加したり、地域連携の普及啓発にも力を入れています。
 このような活動の中から「想いのマップ」は誕生しました。保健所では療養者を中心とした在宅療養支援をするために医療資源がどこにあるかということが書いてある「在宅療養のしおり」をH22に作りました。その中に実際の支援に使えるようなマップ -支援に必要な診療所がどこにあるか、訪問看護ステーションがどこにあるかということを書いた地図 -を入れました。本人が困っていることを書いて下さいというページも作りました。しかしこれを使っていくうちに本人の想いを十分に聞き出せていないことに気づきました。支援者が本人の想いをくみ上げながらその想いを中心とした支援を提供するためには共有できる情報がもっと必要だとわかってきたのです。多職種連携とは言うけれど、その連携の中心は誰なのか、何のための連携なのか、ということを考えれば療養者本人だということがわかります。原点に立ち返って、住みなれた地域、人のつながりの中で私らしく生きるためのツールとして「想いのマップ」を作ろうという動きができました。

 目的として療養者本人のこうありたいという想いを共有し、想いをかたちにできるよう寄り添いましょう。そして活用方法として療養者本人の本当の自分の気持ちを考えるきっかけにしましょうということを掲げました。「想いのマップ」の最初の部分では多職種それぞれの立場から各機関の機能や担当者の役割を記載したページを設けました。いろいろな専門職が連携して療養者の想いをわかったうえで支援しようとしていることを説明しています。続くページが記入部分です。まず誰がその場にいてお話を聞いたかということを書く部分があります。その後ろに記入する3ページが続きます。
 まず、1ページ目は積み重ねてきた自分の歩みを書く部分です。自分の好むこと、好まないことを書いてください。自分の人となり(価値観・考え方)を知り、これからどうありたいかを考えるきっかけにしてください。2ページ目は今起きていることについて書く部分です。健康状態について、客観的な現在の状態だけでなく、自分がこの状態をどう思っているか、健康状態を踏まえて生活をどうしたいかを書いてください。3ページ目はこれからの私について書く部分です。これからやりたいこと、今までできなくて気になっていること、を書いてください。また、今までを振り返りこれからも大切にしたいことや、これは変えていきたいということを書いてください。そうすることによって自分自身の想いを整理することができると思います。

 すなわち、「想いのマップ」とは次のような目標をもって作られた想いの記述です。
 ① 生きる希望やその想いを理解する、引き出すきっかけとするもの
 ② その第1歩はこれまでの私の歩みを語ることから
 ③ 顕在化している想い、潜在化している想いを共有し、これからの私はどうありたいか、わたしの想い、歩む方向を示すもの(本人の言葉で)
 ④ 語りながら気づく、変化する思いも理解、共有する
 ⑤ 療養者自身や家族、支援者も変われる
 ⑥ 療後者本人を中心に、想いをかたちにしながら。寄り添う
 ⑦ 主体的に、最期まで私らしく生きる、今を充実させていく
 あなたは何を望みますか?安心して自分らしく生きること。他人任せにしないで自分の力を活かして自助・互助・共助・公助を進めていく。これらのために保健所に意見を寄せていただき、皆さんと共によりよい療養が実現できるように進んでいきたいと思います。