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2014年ホスピス研修講座第3回   2015年1月17日(土)

 私らしく生きるために、思いを形に
 第3回 「想いのマップ」活ようの実際
   テーマ2 事例紹介
        宮原 可南子


 「想いのマップ」の第一歩は、これまでの歩みを患者さん本人が語ることから始まります。これまで、積み重ねてきた想い・歩みを振り返ったり、今起きていること、こちらに向けての想いなど、本人の言葉で語ることで本人も改めて自分の気持ちに気づいたり、整理できることがあるかと思います。想いのマップの内容は生きる希望やその想いを理解する、引き出すきっかけとするものと考えますが、決して無理して聞き出すものではないと思っています。そして、想いのマップからどんなサービスが受けられるか知り、“~がしたい”“~ができる”という選択肢の幅を少しでも広げられると良いと思っています。今回は想いのマップを使用した神経難病の療養者さんの事例を紹介します。

〈1事例目〉
 Aさん 息子さんと二人暮らしをしている方でした。「息子には迷惑をかけたくないから私は施設に行きたい。早く亡くなった夫が迎えに来てくれないかしら。みんなのお世話になりたくない。」と語っていました。ある日Aさんは緊急入院することになりました。入院中のAさんは部屋でぼんやりと横になっていました。私は入院中のAさんはAさんらしくない、このまま施設に行ってもいいのかと疑問に感じ、想いのマップを使用しました。
 Aさんが今までやり続けてきたことや今気になっていること、やり残したことを病室でゆっくりお話しさせていただきました。Aさんは「私は今まで毎日日記をつけ、家にそのまま置いてきてしまいました。手を動かすことも難しくなってきたけどできる限り日記も書きたいし家に帰って日記の整理をしたい。」と語りました。その想いをご家族やケアマネジャーに伝えました。ご家族は「本人のやりたいようにしてあげたい。施設はお母さんにはあっていないと思っていた。」と話されました。ケアマネジャーは、Aさんが安心して自宅で生活ができるようにサービスを整えていきました。退院後Aさんは日記をできる限り書き、整理をして自宅で息子さんと最期まで過ごされました。

〈2事例目〉
 Bさんは施設に入所中の方です。Bさんは「人の役に立ちたいと思っています。けれどこんな体になって役に立つことはできない。私という存在が誰かの心の中に残ってくれればいい。」と話していました。しかし、人の役に立つことは今のBさんにもできるのではないかと私は考え、想いのマップという形に残るもので示して気持ちを共有していこうと思いました。想いのマップの説明をしてBさんと1時間半くらい語り合いました。その中で「人の役にたつためにボランティアをしたいけれど、今の体ではできませんよね。」とBさんは話されました。私は「Bさんは多くの人と関わり、多くの人の心の中に残っています。病気になり様々な経験もあります。その想いを伝えるのはBさんにしかできないことではないですか。」とBさんに話しました。するとBさんは「話すことは私にも出来ます。皆さんにも学生さんにも今まで体験してきたことは語れます。私でよければ学生さんも連れてきてください。」と話されました。この「施設で生活していきたい。学生さんを連れてきてください。」という想いをBさんのケア会議や支援者に電話で連絡しました。
訪問看護師からは「病気になって落ち込む部分が多いので精神的な支援が重要だと思う」、ケアマネジャーからは「様々な職種で聴くことでわかる想いもある」というお話をいただき多職種で語り合うことの重要性を感じました。そして、想いのマップを自室に置いてBさんが知ってもらいたいときには支援者がマップを見られるようになっています。現在Bさんは看護学生を受け入れてくださり、人との関わりの中で大事にしてきたことや、患者になって感じていることを伝えてくれています。

 今までの経験してきたことや病気になった今の想い、これからの希望はつながっていると実感させていただきました。このほかにも想いのマップを使って感じたことがあります。
 1.多職種連携の時にみんなで目標を統一することができました。本人がどうしていきたいかを文字化して見えるようにすると目標かぶれずに共有しやすかったと感じました。
 2.普段の会話からはわからないことが沢山ありました。特に私は“今までの私(過去)”の部分を聴けていなかったことに気づきました。
 3.想いのマップは本人のもとに保管されるので支援者が変わってもマップを見ることでその方の想いが分かりやすいです。
 4.最期の迎え方や主治医の病状説明、家族のことも話しやすいと感じます。想いのマップは項目ごとになっているので、最期についても自然の流れで話すことができました。
 5.同じ疾患でも病気の進行や受容段階、家庭環境によっても想いのマップはそれぞれでした。先入観をなくし本人の気持ちになって寄り添うことの難しさも感じました。
 もちろん人の気持ちは日々変化していきます。ゆっくりとお話を聞いてその時の気持ちを素直に表出していただけるような寄り添える関係ができたらいいと思います。大切な方や自分白身が最善の生を生きることができる一助としてこの想いのマップを活用して頂きたいと思います。